【コラム】ベトナムのエンターテインメント市場|BLACKPINKのベトナム公演

2023年6月、ベトナム全土に大ニュースがかけ巡りました。7月29日30日ハノイのミーディン国立競技場にてBLACKPINKの公演が決定。海外の有名アーティストのアジアツアーは東京、大阪、ソウル、台北等が多く、東南アジアが含まれたとしてもバンコク・シンガポール・ジャカルタなどでの公演までで、ベトナムでのパフォーマンスは行わないことが通常でした。そんな中での急遽の公演決定だったこともあり、7月中は会場から遠く離れたホーチミンでも街中でBLACKPINKの曲が流れ、商店は黒とピンクに彩られました。これがなぜ大ニュースだったのかというと、上記のようにアジアツアーでは常にベトナムはスキップされており、世界的ミュージシャンの公演はとにかく少ないという事実があります。

なぜ、ベトナムでは有名アーティストのパフォーマンスが少ないのか

大前提としてやはり経済的な部分によることが影響しています。ベトナムでは日本のように1席1万円を超えるチケットを簡単に購入する余裕のある方はまだ多くはありません。このような経済的要因が背景となり実施本数も少なく主催者にとっては金銭的メリットが他国よりも低いことが挙げられます。これに加え、エンターテイメントや興行に関する経験値が低いことから、適切なインフラが整備されていない状況があり、ベトナムはコンサート市場はまだまだ発展途上です。しかし、これまでに大物アーティストの来越が全くなかったわけではなく、過去にはクラッシックやジャズ、ロック、EDMと様々なジャンルで何度かパフォーマンスを行っています。今回はそのようなイベントの際に必要な手続きを調べてみたところ、他のビジネス同様、煩雑なベトナムでの行政手続きが見えてきました

行政手続き 原則として、ベトナムでのライブ・コンサートを開催するための規制要件は、必要な情報を含む書類や申請書を用意し、これを文化・スポーツ・観光省に提出することです。同時に、公演期間に応じて手数料が必要です。ただし、申請書には歌詞のセットリストなど、歌詞内容のコピーを添付する必要があります。歌詞が外国語の場合、ベトナム語に翻訳しなければなりません。翻訳された歌詞は、ベトナムの厳格な検閲法に抵触しないかどうか審査されます。この検閲規則は曖昧で、解釈の余地が生まれるので翻訳が難しく、誤解釈により当局に却下される可能性があります。さらに、ライブパフォーマンスを行うには、イベントが開催される地域の人民委員会の許可が必要です。また、出演者とその一行がパフォーマンスを行うためには商用ビザが必要で、これには入国管理局との手続きとなります。一見、工程自体はシンプルに感じるのですが、ベトナムの行政手続きは時間がかかり、複数の省庁が関連してくると、状況はより複雑になってきます。

税金 ベトナムでのライブパフォーマンスには、税金の面でも込み入った要件が存在します。公演後の利益はほとんどの場合、ベトナムの外国契約者税(Foreign Contractor Tax)の対象となります。アーティストの事務所は、現地の税務専門家と協力し、明確なガイダンスを得る必要があります。また、得られた資金をアーティストの母国に送金する場合、資金が正当に得られたことを証明する必要があり、これもまた煩雑な手続きとなります。(このFCTはエンターテイメントだけに限らず、ベトナムで通常事業を行う企業にとっては関わることの多い税金となりますのでしっかりと理解をすることが必要です。会計コンサル会社等にもしっかりご確認を!)

チケットの料金と転売

BLACKPINK日本公演のチケット代は、PREMIUM SEAT ¥33,000・一般席 ¥15,000、キャパシティは約5,5000人。ベトナム公演は、他国同様に客席エリアが細分化され、それぞれ価格が違うのですが、最低価格は、ごく少数の見切り席1,200,000(約¥7800)から最高額はVIPの9,800,000(約¥60,300)。平均価格は5,350,000(約¥32,900)でキャパシティは40,000人。円安を考慮しても、他のアジア公演と比べてかなりの高額となりましたが、チケット発売日には多くの人がプレイガイドにアクセスし、あっさりと完売してしまうのでした。

(画像)販売開始時間にプレイガイドにログインすると、購入まで約11万人待ち。

ただし、チケットを買い占めて高額転売を試みる人々が存在しています。注目すべきなのは、この公演においては多くのチケットが高額で転売されず、公演が近づくにつれて額面価格またはそれ以下で取引されたことです。人々はチケットが高額であると苦言を呈していたのも事実ですが、会場での厳格なチケットチェックも影響していたと考えられます。当日、会場入り口では身分証明書と電子チケットが必要で、その電子チケットに関してはプレイガイドが購入時に直接送信したメール本文の提示も必要でした。スクリーンショット・転送メール・紙に印刷した物は全て入場拒否となりました。

(画像)7月29日の公演。弊社代表吉岡もライブに参加。(ベトナムの伝統的な傘ノンラーをかぶるROSEかわいい)

ホーチミンからハノイまでの航空券・ホテル価格は高騰し、ブッキングオーバーの為か、予約したホテルが当日に強制キャンセルされ、ハノイで路頭に迷う事になったようです。

まとめ

ベトナムの若者達は、国内で手に入らない物があれば、近隣の国へ渡ります。エンターテインメントで例えるのであれば、テイラー・スウィフトがシンガポールでの公演を発表した際、旅行予約サイトagoda内でベトナムからシンガポールへの航空券・ホテルの検索が急増しました。彼らにとって、ホーチミンから飛行機で約2時間で行けるシンガポールで、世界的アーティストであるテイラー・スウィフトの公演を楽しむ週末旅行は難しい事ではありません。ベトナムの観光業界もこれに着目しており、地元でのライブイベントの増加がベトナムの観光資金の流出を防ぐだけでなく、国内や世界中からの観光客を増やす可能性があることを認識しています。現在、ベトナムのGDP成長率は約6~8%で推移しており、1億人の強力な消費者基盤の中で、可処分所得は増加傾向にあります。しかし、エンターテインメント市場はまだ非常に新しく未開発であり、ベトナムの若者が国際的アーティストによる定期的な公演を期待できるようになるには、まだしばらく時間がかかるかもしれません。

とはいえ、徐々にではありますが需要は高まっており、ポップロックバンドであるマルーン5がベトナム国内リゾート地フーコック島での公演を決定。また、世界的DJであるスティーブ・アオキの公演実施や、ファットボーイ・スリムがホーチミンで年末カウントダウンパーティーを行うなど、上記のような法制面も含めても、これまで注目されてこなかった新興市場ベトナムにおいて様々な海外アーティストの実施本数は確実に増えてきており、世界的にも注目がなされていることが証明され始めています。

参照:Vietnam BriefingBrands Vietnam

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