15年ほど前から、ベトナムでは犬や猫をペットとして飼う文化が急速に浸透してきました。2019年の調査によれば、ベトナムではペット保有率が23%で、この中で最も人気のあるペットは犬で23%、続いて猫が15%、金魚が10%、鳥が7%となりました。世帯あたりのペット数は犬・猫ともに1匹が60%で最も多く、2匹以上を飼っている世帯が40%を占めています。これは日本の調査結果である2匹以上が23%と比較して、ほぼ倍近い数字です。この調査から見える傾向は、ベトナムでは約4人に1人が家庭で犬を飼っており、多くの人が2匹以上の多頭飼いをしていることです。多頭飼いをする理由としては、「犬や猫に仲間がいないと寂しいだろうから」という優しい気持ちが多くの飼い主たちに共有されているようです。
ベトナムで人気の犬種
最近では、高価な外国種の「血統書付きの犬や猫」を飼うことがステータスとして広まっており、特にホーチミン市の中心部から車で20分ほどの距離にある7区や2区の高級住宅街を中心に、このような高価なペットが一般的となっています。ペット愛好者たちの間で特に人気な犬種の一つが「シベリアンハスキー」で、その美しい被毛と活発な性格から広く愛されています。価格帯は産地により異なり、約5,000,000₫(約3万円)〜50,000,000₫(約30万円)。また、もう一つの人気犬種「トイプードル」は約5,000,000₫(約3万円)〜10,000,000₫(約6万円)、次に人気の「コーギー」は約9,000,000₫(約5万円)〜50,000,000₫(約30万円)となっており、公園では犬の散歩風景がよく見受けられ、そのためにペット関連のビジネスも盛んになり、ペットショップ、地元や欧米系の24時間動物病院、ペットホテル、関連商品を扱う専門店などが増え、関連のサービス業が拡大してきています。一方で、ペット飼育禁止などの理由によりペットが飼えない人をターゲットに、犬カフェ・猫カフェなども浸透し動物との交流を求めて多くの人が訪れています。システムは日本と少し違っており、平均して1人150,000₫(約880円)で飲み物とスナック若しくはケーキ付き。そして時間無制限なので思う存分愛でる事が可能です。
ベトナム4大犬種
このように、多くの人に身近なペットですが、日本の柴犬や秋田犬のように、ベトナム特有の犬種も存在しています。希少であり、品種の純血性や健康面での不安が飼い主たちの選択に影響を与えており、実際に出会う事は稀ではあるのですが、彼らは皆、機敏で勇敢で知的なハンターであり、飼い主に非常に忠実であるという同じ特徴を共有しています。地元の文化や風土に深く根ざしており、人々と共に歴史を歩んできた、地元の魅力を体現するベトナム原産犬に焦点を当ててみましょう。
・フーコック犬 / Chó Phú Quốc
フーコック犬は、ベトナムの有名なリゾート地フーコック島固有の犬種です。非常に賢く忠実な犬種であり、特にフーコック島民とベトナム人全般の誇りとなっています。
よく似た犬種を見かける事がありますが、ほぼ全部が雑種となります。特徴は、背中の中央の毛が逆立っており、手足に水かきがついていて泳ぎが得意、短い毛、短い尻尾、胸部が大きく腹部が細い。獲物を追いかけたり敵に遭遇したりすると、背中の毛が立ち上がり、勇敢な姿勢を見せます。特に特徴的なのは、出産のために巣穴を掘る点です。忠実で賢く、飼い主の指示を理解し、縄張り意識が高い為、かつてはグエン王朝の軍用犬として活躍していました。
・モン コック犬(モン犬) / Chó H’Mông cộc đuôi
モン・コック犬はベトナム北西部山岳地帯に住む野生犬であり、少数⺠族モン族により家畜化されました。「モン」はモン族、「コック」は尻尾が短い事を意味し、その名の通り、尻尾が短い(又は、全く無い)のが最大の特徴です。三角形の耳を持ち、常に前を向いて音を感知しています。後ろ足は攻撃の際に常に有利な位置にあり、メスはオスに比べてやや小さく、頭の輪郭が柔らかいですが、外見の違いはほとんどありません。全体的に、角張った体つきをしており、繊細で柔らかな特徴は少ないものの、優れた身体的特徴を備え、厳しい気象条件にも耐える能力があります。平均的な身長のずんぐりとした体、大きな頭と表情豊かな目。また、強い歯としっかりとした噛みつきは、古代の狩猟犬の特徴です。
・バクハ犬 / Chó Bắc Hà
ベトナム北西部の高地国境にあるバクハ地域、また前述したモン族によって、狩猟犬・森林間移動の伴侶・番犬として飼育されてきた犬種で、祖先はヒマラヤ原産犬ではないかと言われています。ごわごわとした毛で覆われ、首にはライオンののようなたてがみがあり、尻尾はリスの尻尾のような形をしており、これらの特徴が組み合わさり、美しさだけでなく風水的にも良い意味を持つとして注目されています。中型犬で、さまざまな毛色を持ち、白、黒、黄色、虎毛、グレー、斑点、茶色などがあります。山岳地帯での移動が得意で、複雑な地形を素早く移動し、特に高山での活動に長けています。性格は穏やかで、攻撃的なことは滅多にないですが、敵などをがいる状況になると激しい反応を示すことがあります。非常に賢く、しつけが容易で、飼い主に従順な性格を持っています。
・ライ ソン マー犬(ライ犬)/ Chó Lài sông Mã
ライ犬は何百年も前に遡る、純粋なベトナム起源の古代品種で、主にマー川の上流沿いのラムソン地域と、北部国境地域の一部の人里離れた村で生息しています。稀にインドシナディンゴ犬と混同されていますが、別の品種となるそうで、独特な三角形の顔を持ち、オオカミに似てつり目で、縁取りは暗く、毛色は主に赤と琥珀色。足は丸くて水かきがあり泳ぎが上手く、前足は人間の手首のように柔軟に回転し、ステップが直線的であるため、ジグザグに獲物を追いかけたり、向きを変えて獲物を追いかけたりするのがとても上手です。性格は大人しめで、飼い主との絆を非常に強く持ち、飼い主を守るために自己犠牲になることもあり、外見の美しさと中身の両方で完璧な犬とされ、古代からの狩猟者として賞賛され続けています。尚、家庭では悪霊から守るための守護者としても重宝されるそうです。
狂犬病について
ベトナムのペット事情や魅力的な犬種などをご紹介させていただきましたが、この活気あるペット愛好国には、重大な問題を抱える側面も存在します。その中でも深刻な問題の一つが、狂犬病の脅威となります。狂犬病は年間5万人以上が死亡する人獣共通感染症で、発症すればほぼ100%の死亡率を示します。感染はほとんど全ての哺乳動物から起こり、日本はベトナムを「狂犬病のリスクが高度の国」と指定し、狂犬病ウィルスを媒介する動物と接触する恐れがある場合は予防接種を推奨しています。 咬まれた場合は、感染を特定する検査法はなく、症状が現れた段階では治療法が限られています。ベトナムでは犬や猫の狂犬病予防注射接種率は全体の50%前後というデータもあり、必ず、無用な接触を避けるよう心掛けましょう。
ペットビジネスの成長と課題
ベトナムの急速な経済成長に伴い、多様な動物たちが需要をけん引しながらペットビジネスが躍進しています。これに対し、狂犬病のリスクや悪質ブリーダーなどのさまざまな問題は、ペットビジネスに新たな課題をもたらしています。飼い主教育の必要性が高まりつつあり、法的フレームワークの整備も急務となっています。バランス感覚を持ちながら、ペットビジネスを健全に発展させ、市場における安全性と倫理的な標準を確立することが今後不可欠となってくるでしょう。